『ヘレディタリー/継承』は、ホラー映画の良さを凝縮したような作品だった

 一日に一本ずつ映画を観ている。8/2は『ものすごくうるさくてありえないほど近い』を、8/3は『ワンダフルライフ』を、そして8/4は『ヘレディタリー/継承』を観た。

 ホラー映画が好きだ。と言っても、観たことがあるのは邦画だと『リング』『発狂する唇』『ドールハウス』『回路』『CURE』『8番出口』程度であり、洋画だと『シックス・センス』『シャイニング』『ミスト』『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『エクソシスト』『悪魔と夜ふかし』『ゲット・アウト』、そしてロメロのゾンビ映画すべてと数えられる程度である。だから、この夏はホラー映画も多く観賞していきたいと思っている。

 『ヘレディタリー/継承』(アリ・アスター,2018)は、なんとアリ・アスター監督の長編デビュー作だという。そうとは思えない重厚な映画体験だった。じんわりと来る怖さも良かったが、不意に笑ってしまうこともあった。それも含めて「良いホラーを観たな」という感想である。

 まず、(U-NEXTでの紹介文にもあるように)伏線の張り方が素晴らしい。脚本術において伏線を張る/回収することを「売る/買う」とも表現するが、この売り買いの仕方が勉強になった。祖母の葬式で張られている「見知らぬ人々の参列」「チャーリーを笑いながら観ている参列者」「アレルギー」といった伏線が、最終盤まで活きている。また、あの「コッ」という舌打ちなど最高だ。なにより、チャーリーを演じているミリー・シャピロの顔が怖い。それがまた素晴らしいのだ。正直、ホラー映画に出演している俳優の顔は怖ければ怖いほど良いと思っている。『シャイニング』のジャック・ニコルソンとシェリー・デュヴァルが好例である。
 だから、チャーリーの斬首の演出やピーターがチャーリーの幻覚に怯えるシーンはたまらなく良かった。「コッ」という舌打ちの音で追い詰められていくのも良いし、寝室でチャーリーの首がボールになって転がってくる演出もやはり良い。ただ、『エクソシスト』や『悪魔と夜ふかし』を好む人間としては、(ミリー・シャピロの顔がとても良いということもあって)チャーリーそのものが襲い掛かってくる展開も観たかったな、と残念に思う。悪魔化したチャーリーの首が襲い掛かってくる画、とても観たい。とはいえ、そのようなジャンプスケアが無い(安易な手法に頼らない)やり方は上品で好ましい。A24らしいな、と思った。

 また、終盤の畳みかけが恐ろしく感じつつも笑えてしまった。ジョーンの正体判明や屋根裏の祖母の遺体の発見、父の炎上、そして鼻を怪我したピーターが夜目を覚ましてから体験する出来事など、非常にワクワク・ドキドキさせられて楽しかった。正直、ジョーンの正体や父の炎上は予想がついたが、そういった「いないないばあ」的な楽しみ方もホラーの醍醐味である(幼子が「いないいないばあ」で喜ぶのは「いないいないと言いつつも本当はいるんでしょう? ……ほらいた!」という感情にさせられているかららしい。知らんけど)。
 それはともかく、父が炎上して以降の母の豹変っぷりは本当に笑える。どこに張りついとんねん。そんでもってその頭ガンガンガンガン! はなんやねん。おそらくペイモンが母に憑依(もとい継承)していたのだと思われるが、いやはや悪魔憑きの豹変っぷりはシュールさも兼ね備えるから面白い。そして誰もが吹いてしまうだろう「チリン♪」からの全裸である。じわじわと面白い。思い出し笑いすらできてしまう。そりゃ、黒魔術とかカルト教団がエロ・グロ・ナンセンスに走るのは理解できるけども、「チリン♪」て。「チリン♪」からの落下て。面白すぎる。

 ホラー映画を観終わった後は、現実にホラー展開を期待してしまう。風呂に入るのが怖くなったりとか、洗髪中目を閉じるのが怖かったりとか、鏡を直視できなかったりとか、布団に入ってから寝返りを打つのが怖かったりだとか。それらはすべて、現実にホラーな存在がいることを期待しているから怖く感じるのだ。恐怖は期待感の裏返しである。大きく期待させてもらえるからこそ、ホラー映画が好きなのである。

 そして今は「家」が怖い。ホラー映画の舞台となる「家」はどうしてあんなにも怖いのだろうか。『シャイニング』のホテル、『ドールハウス』の住宅地、『ゲット・アウト』の彼女の家……。思えば、どの家もとても広かった。我が家はとても狭い。そのこともあって、慣れない広い空間を怖く感じているのかもしれない。将来住むなら手頃な狭さの家が良い。広すぎると、知らないモノまで憑いていそうな気がするから。

 A24作品はこの映画の他に『ドリーム・シナリオ』を観たことがある。好きなタイプの映画だった。『関心領域』『ミッドサマー』『ボーはおそれている』『ラム』あたりは観たい。『バックルームズ』も楽しみである。とりあえず今日は、『ボーはおそれている』を観ようと思う。

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